|
|||||||||||
| 7.消費者の感性を捉える調査・分析の新技術 製品開発の中で、デザインの重要性が高まっている。現在、デザインセンターという部署を持つ企業も少なくなく、デザインを製品戦略の柱に据えていこうとする動きが進んでいる。背景には、メーカー間の事業統合と国際的連携により技術力やコスト競争力だけで製品の差別性を実現しにくくなる反面、日本市場の消費感覚を反映した製品開発の価値が上がっていること、デジタル化や小型化によって、製品形状やインターフェイス・デザインの自由度が高まってきたことがある。 また、ユニバーサル・デザインの取り組みに見られるように、人間行動や生理的側面からの製品機能や形状の開発への関心が高まっていることもある。認知心理学や人間工学、感性工学などの発展によって、これまで分析やマネジメントの対象となりにくかった、消費者の感性やデザインについての科学的アプローチが進歩しはじめた。 本稿で紹介するのは、「感性」と呼ばれる消費者の感覚的な選択行動を捉えるための調査手法とその活用例である。好まれる製品やデザインを科学的に開発・マネジメントしようということが目標である。 基本的なテーマは2つある。第一は、消費者の感覚的な製品やサービス選択をどう捉えるか、つまり、消費者ひとりひとり異なる好み=「選好」を、どう明確にかつ集約して捉えるかという課題である。 第二は、消費者の好みを左右する要素、特に、デザインとの関係を見い出すためのアプローチ手法である。消費者の選好とイメージとデザインとの関係に科学的なメスを入れるというものである。このテーマに取り組むために当社が開発した調査分析技法を紹介する。 尚、この新技法はインターネットを介して行なうリサーチ技法である。バーチャル空間表現力というインターネット独自の特長を活かすことで可能となった「ネット実験」であり、ネットリサーチならではのリサーチ技法といえる。 |
|||||||||||
1.感性はなぜ捉えにくいのか 消費者の購買行動を分析し説明することは容易ではない。機能が優れているとか、価格が安いからという理由はあるかもしれないが、なぜその機能が重要かというように突き詰めていくと、いろいろな説明は浮かぶ。最後ははなはだ解釈的となり、本当にそんなことまで思っているのか、その場の思いつきの説明なのか当事者本人もわからなくなってしまう。 また、実際の店頭にはよく見ると類似のアイテムがあることも少なくなく、なぜそれを選んだのかの説明は難しい。ファッションやインテリア商品の場合は、特に難しい。この色や形が好きだからということになるが、なぜ好きかの説明はつけにくい。そういう好みだとしか言えなくなる。このような意識のプロセスを感性と呼んでおく。 |
|||||||||||
言語化される以前の意識プロセスである。今回対象とするのは、このような商品やその選択プロセスである。このような感覚的な消費者意識を量的に捉える場合、一般的な手法では次のようになる。ブランド・イメージの測定の場合、まず、多くのイメージ項目を提示、それについて評価してもらう。(図表1) 得られた評価結果から因子分析により、評価対象ブランドのイメージを集約できる軸を抽出、この軸と軸に対する各ブランドの得点値からブランドの知覚マップを作成する。このような一般的な方法で感性は捉えられるのだろうか。次のような問題があると考える。第一に、感性をイメージ言葉で捉えることができるかという問題がある。消費者は自分の感覚を表現する適切な言葉を見つけられるかという表現力の問題と、言葉の意味は誰でも同じかという多義性の問題である。 第二に、イメージを要素分解してよいかという問題がある。一般のイメージ調査では、イメージ要素に分解して評価を取り、分析により総合化するが、イメージはもっと全体的に感じるものではないかということである。 第三は、「知覚」から「選好」というプロセスを前提にしている点である。イメージ表現ができなくても好き嫌いなどの区別はできるというケースも多いのではないか、とすると選好は知覚を前提にしない、または同時に生起するプロセスと考えることもできる。最後に、この方法で回答を得ようとすると、質問量が非常に多くなる。このため回答者への負荷が大きくなるという問題がある。 一般的な調査方法のこのような問題に対して、VPT(ビジュアル・ブリファレンス・テスト=画像選好実験法)では、なるべく言葉を使わず、全体的な感覚を瞬間的に捉えて、そのまま分析しようとする。VPTは、ビジュアル選好実験と選好パターンの2つで構成される。
|
|||||||||||
ビジュアル選好実験とは、ビジュアル・チョイス・ボードと呼ぶ質問モジュール(図表2)をネットリサーチの質問画面上に掲載して、マウスでドラックするという形で回答を得るものである。回答者に20から最大100ほどのアイテムを提示し、「好きなもの」や「買いたいもの」や「嫌いなもの」という基準で選択、順位付けをしてもらう。提示するアイテムは、商品写真が多いが、イラストなどでもよい。簡単な商品説明を付け加える場合もある。提示の位置の影響をなくすため、ランダムな配列で提示する。なる 回答者のアイテム選択の背景には、何らかの一貫した意識が働いていると考え、同時に選択されたアイテム同士は、その回答者にとっては類似しているアイテムとみなすことで、回答結果からアイテム間の類似性の度合いを測定することができる。この類似性の度合いを元にアイテムの選択パターンを解析する。主には、多次元尺度構成法によって分析する。分析結果はアイテムを布置した選好マップとなる。これが選好パターン解析である。 VPTを活用した調査では、1)ビジュアル・チョイス・ボードを利用した質問、2)選択アイテムについての選好理由についての質問、3)対象者属性についての質問で基本的に構成される。質問構造としてはシンプルなものである。分析は、選好パターン解析による選好マップ分析をベースに、調査目的に応じて様々な分析が加えられる。 VPTの技法を製品ポジショニング分析に活用する例を紹介する。当社でVPTプロダクト分析と呼んでいるこの分析は、市場全体の中で、多くの商品がどのように選択されているかを製品マップとして表現し、そこから、市場構造やその変化、アイテムの競争力などを明らかにしようとするものである。製品マップの作成は製品戦略を考える際のベースであり、多くの場合は、マーケティングスタッフが様々に変数を考慮して作成することが多い。 但し、量的データをベースに作成する場合は、知覚マップとなることが多い。これは、様々な製品をユーザーはどのように認識しているかをマップ化したものである。製品知覚と何を選択をしているのかとは必ずしも一致するわけではない。 一方、VPTの分析からは選好マップが得られる。認識ではなく選択のパターンを分析したものである点が異なる。VPTプロダクト分析では、目的に応じて次の6つの分析を行なう。1)製品ポジショニング分析(マップ化)、2)製品選好カテゴリー分析、3)アイテム魅力度分析、4)トレンド分析、5)ユーザー分析、6)選好要因分析(キーファクター分析)製品選好カテゴリー分析では、ユーザーの選択視点で製品のサブカテゴリーを抽出し、各カテゴリーのボリュームを算出する。 アイテム魅力度分析では、次の点で分析を行なう。●各アイテムが魅力あるカテゴリーに属しているか、●そのカテゴリーの中、つまり直接競合アイテムとの比較で優位にたっているか、●各アイテムの支持ユーザーの広がり、●各アイテムに対する選好の強さ、●現在の購入と選好(今後買いたいか)の比較を行なう。 トレンド分析では、カテゴリーごとの現状との比較と、アイテムのスイッチ可能性、言い換えれば固定客度合いを測定する。これらにより、全体的な変化とアイテム単位での変化の方向を知ることができる。ユーザー分析では、各アイテムやカテゴリーの支持ユーザーのプロフィールを詳細に分析するものが一般的である。現ユーザーと潜在ユーザーの比較分析をすることにより、ユーザーとノンユーザーの製品を判断する視点の違いやノンユーザーが注目しやすいアイテムを捉えることもできる。 最後に、選好要因分析は、選好を左右する要因を判別する分析である。この要因分析によって、製品マップ上でポジションを修正しようとした場合に、何が最も重要となるかを見極めることができる。製品の多機能性や品質、耐久性、イメージなどのどの要素を修正したり、プロモーションにより伝達することでポシジョン修正をすることが可能となるかが明らかになる。 VPTプロダクト分析によって、現在の製品市場を点検することで製品戦略やブランド戦略を検討することができる。また、新製品の市場での受容性を既存品との比較の中で把握することもできる。不振商品や他社のヒット商品の要因をつかむこともできる。広告・プロモーションの事前と事後で比較分析をすることで、商品の浸透度だけでなく、市場構造の変化に及ぼした影響も含めてプロモーション効果を測定することができる。
|
|||||||||||
![]() ■歯磨き剤についての選好マップ(図表3) |
|||||||||||
| 4.好まれるデザインを見極めるリサーチ
前節で、好みのパターンを製品マップとして把握した。次にその好みのパターンを左右する要因を見極めるリサーチについて紹介したい。ここで特に注目するものは、デザインである。選好を左右するデザインをデータによって明らかにすることで、デザインのクリエイティブと市場戦略とを一体的に考えることができるようにすることが目的である。 ユーザーの好みとデザインとの間には、そのデザインについてのイメージがある。好むといっても、どのようなイメージを好むのかは一様ではない。基本的な好みのパターンをイメージパターンとして捉えることが最初である。その次に、そのイメージに影響するデザイン要素が何かを把握する。(図表4)デザイン要素は、ユーザーに意識的または無意識的に知覚されるデザイン要素であり、色、配色パターン、全体形状、部分形状など、様々な要素がある。その要素の中で、イメージや選好との関係性が強い要素や要素の組合せを明らかにしていく。 実際の調査、分析は、複数のステップに分かれる。(図表5)まず最初に、前述のビジュアル選好実験と選好パターン分析から、好まれるデザインのパターンを見極める。次に、好まれるデザインについてのイメージ質問とその分析から、好まれるイメージ要素を絞り込む。この場合、調査からの絞り込みだけでなく、今後の製品戦略上、必要と考えられるイメージも加味する。 例えば、今後、女性ユーザーの拡大を目指す場合、美しくなれそうというイメージを基軸イメージ要素として組み込むようにする。並行して、知覚デザイン要素の抽出を行う。好まれるデザインと好まれないデザインについての注目点を質問し、結果を分析スタッフが解釈することによって、知覚デザイン要素を仮定する。その上で、基軸イメージとの関係分析から、重要となる要素を特定していく。このステップは極めて探索的なステップであり、分析に時間を要する。 デザインの基軸イメージには、一般的には3つの種類がある。製品としてのわかりやすさや親しみやすさに関わるもの。2番目は、製品自体の魅力を表すイメージ。このイメージは、製品コンセプトに直結するいくつかのイメージに分かれる。3番目は目新しさに関わるイメージである。製品やユーザーの属性により、3つのイメージタイプの重要度や内容が異なってくることが多い。つまり、わかりやすいイメージの重要度は性別、年代により異なる場合が多く、また、わかりやすいイメージに影響するデザイン形態は、ユーザーとノンユーザーとでは異なる。 |
|||||||||||
![]() ■デザインと選好との関係(図表4) |
|||||||||||
| 5.VPTの活用に際して
VPTの選好パターン分析は、感覚的な選択行動をインターネット上で再現実験し、その結果を分析するものである。感性的な商品やデザインに関わる好みとその要因の分析には適した方法と考える。逆に、機能で選ぶ商品やサービス、じっくり事前検討して選択する商品についての分析であれば、従来からの分析方法の方が鮮明な分析結果が得られる。 利用にあたり注意して欲しい点がある。調査の設計は、分析結果が質問文により左右されないため、比較的簡単に設計できる。但し、最初のビジュアル選好実験の場合、その選択土俵の設定に留意する必要がある。好きな携帯電話のデザインと言うのか、モバイル機器のデザインというのかにより、テーマ設定で結果が異なる場合がある。尚、選好パターンの分析商品では、商品以外にファッションなどのスタイルの好みの分析も可能である。様々な対象物での分析や様々なアウトプット例については、別の機会に説明したい。 |
|||||||||||
![]() ■デザイン・イメージ選好構造分析のフロー(図表5) |
|||||||||||
Copyright(c) JMR science Co., Ltd. All rights reserved. |
|||||||||||